奇跡のカムバック谷沢健一

陰で支えた元特務機関諜報部員

谷沢健一は昭和45年、ドラゴンズに入団、その年に新人王を獲得。49年には20年ぶりの優勝をし、51年には首位打者を獲得し順風満帆の野球人生でした。

ところが、学生時代から懸念であったアキレス腱の痛がひどくなり、米粒大の白い塊の軟骨を発症しました。　　　　　　　　アキレス腱の「仮骨化」となり、プロに入ってからも、注射や針灸を続けましたが痛みがひどくなり、とうとうプレーが出来なくなりました。

どの病院に行っても治らず、そんな時に出会ったのが小山田秀雄でした。

名古屋近郊の春日井市で、複数のお年寄りの治療に来ていたのです。ある人からの紹介で小山田の元を訪ね、半信半疑のまま日本酒マッサージの治療を受けました。すると4日目に足がポカポカしてきたと言います。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こうして、その後2年間、谷沢健一は福岡の小山田の実家にある診療所に通いました。

小山田秀雄氏の経歴は元スパイ

小山田は、第二次世界大戦中に特務機関諜報部員（いわゆるスパイ）所属して、インドネシア、満州で活躍をしていました。　ところがある時、上海近郊で敵に拘束されてしまったのです。ひどい拷問を受け、脱走できないように身体、手足の腱を切られ瀕死の状態にさせられました。

そして死刑を執行される前日に、看守から、「煙草とお酒のどちらかをお前にやる。」　　　　　　　　　　　　　　　　　　どっちがいいのだと言われ、お酒を選びました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ところが、いざ飲もうとしましたが、腱を切られているせいかグラスを落としてしまったのです。しかし、飛び散ったお酒を体に塗ると、不思議と傷が癒され体が動くようになってきました。

そして、その日のうちに古武術を使い看守に当て身を食らわせ、気絶させて脱獄しました。　　　　　　　　　　　　　　　　一週間マンホールの中に閉じこもって追ってがいなくなるのを待って逃亡したのです。　　　　　　　　　　　　　　　　　　まるでスパイ映画さながらの出来事で、奇妙な体験を持った人物なのです。

そして、苦難の末、日本にたどり着きました。

日本酒マッサージ治療

終戦から3年後に日本酒マッサージを細々と自宅で開業。

そして、西鉄ライオンズの影のトレーナーとしてチームの日本一優勝に貢献しました。あの「神様、仏様、稲尾様」の連投に次ぐ連投も小山田秀雄の功績と言っても過言ではありません。

特殊スパイクを考案

しかし、スパイクを履いてプレーをするにはどうしても不安がありました。そこで、同じアキレス腱を痛めたメジャー選手が、ブーツのようなスパイクを履いていたのがきっかけでした。早速、メーカーに依頼し出来上がりましたが、長靴のようで見た目が良くなく恥ずかしくて、ロッカーから出て行くのが恥ずかしかったようです。しかし、足の保護には抜群の効果を発揮し、安心してプレーに集中することが出来るようになりました。

その後、奇跡のカムバック

谷沢健一は、その治療が功を奏し、1980年（昭和55年）に再び首位打者に輝き、この年、見事、カムバック賞を獲得しました。

そして、もう一つ、依然と違ったことは勝負強さが増したことです。どちらか言えば、谷沢健一の打撃は淡白でチャンスに弱い打者でした。ところが、戻った谷沢健一は打点も多く、長打力も増していました。

現に、この年のOPSは驚異の1.066（0.800で優秀だと言われている）を叩き出しました。　　　　　　　　　　　　　　　　　精神的にもたくましくなっていたのです。

1982年、彼の活躍もありドラゴンズは8年ぶりの優勝を飾りました。1985年には、見事2000本安打を達成し名球会入りも果たしました。

その後は、西武ライオンズの打撃コーチを務め、早稲田大学客員教授、プロ野球解説者として活躍中。

谷沢健一と言えばアキレス腱を克服したことは有名な話ですが、更に一つ付け加えるならば、背番号を軽い盤号14から逆の重い41にした事でも話題になりました。